
今度は通帳問題だ。1476万円はどこへ消えたのか。
https://n-seikei.jp/2025/03/post-108341.html
佐賀玄海漁協を揺るがす海砂協力金訴訟が、いよいよ核心に入り始めた。
前回書いたように、この裁判の出発点は、玄界灘で海砂を採取する業者が佐賀玄海漁協に支払う協力金が、1立方メートルあたり100円に据え置かれてきた問題である。
隣接する長崎県側では、壱岐市東部漁協などに対し、地元業者から1立方メートルあたり150円が支払われているとされる。
同じ玄界灘、同じ海砂採取、同じように漁場への影響を受ける漁業者でありながら、佐賀は100円、長崎は150円。
この差は何なのか。
なぜ佐賀玄海漁協の理事たちは、増額交渉をしなかったのか。
そこが訴訟の大きな争点である。
しかし、裁判はそれだけでは終わりそうにない。
今回、裁判所から調査嘱託を受けた信漁連唐津支店の回答内容によって、海砂協力金をめぐる金の流れが、さらに生々しく浮かび上がってきたのである。

上地区、下地区、中地区――別口座に流れた協力金
資料によれば、海砂採取業者、いわゆる砂組合側から支払われた企業協力金は、佐賀玄海漁協本体だけではなく、複数の口座に振り込まれていたとされる。
具体的には、次のような流れである。
上地区組合長会。
下地区組合長会。
中地区漁協運営委員会。
そして、玄海漁協呼子支所の口座。
つまり、協力金は単純に漁協本体の会計へ一本化されていたわけではなく、地区別・組織別の口座に分散していた可能性がある。
信漁連唐津支店の回答要旨では、上地区組合長会は2つの口座を持ち、2個目の口座に約706万円が振り替えられていたとされる。
下地区組合長会の口座は1つで、忘年会費等として約45万円が費消されていたとされる。
中地区漁協運営委員会も2つの口座を持ち、2個目の口座に約724万円が振り替えられていたとされる。
ここで出てくる数字が、非常に重い。
約706万円。
約45万円。
約724万円。
合計すると、約1476万円である。
原告側の資料では、この1476万円について、旅行や食事などに使われた可能性があるとして、玄海漁協に損害を与えたものだと主張している。
「中抜き」と言われても仕方がない構図
もちろん、裁判で確定した事実ではない。
最終的には証拠と審理によって判断される。
しかし、資料上の構図だけを見ると、組合員が疑念を抱くのは当然である。
海砂採取は、玄界灘の海底を削る事業である。
その影響を受けるのは、組合長でも理事だけでもない。
日々、海に出て漁をしている組合員全体である。
であれば、業者から支払われる企業協力金は、本来、漁協全体の利益、漁場環境の保全、組合員への説明可能な形で管理されるべき金である。
ところが、その金が地区組合長会や運営委員会の別口座に振り込まれ、さらに別口座へ移され、最終的に旅行や食事などに使われた疑いがあるとなれば、これは穏やかな話ではない。
いったい誰の金なのか。
何のための協力金なのか。
誰の承認で、誰が管理し、誰が使ったのか。
この問いに答えられないなら、「先人たちが決めた協力金でしっかりやっている」などという説明では済まされない。
理事7人の責任はどこまで問われるのか
資料には、複数の理事名が記載されている。
上地区組合長会の会長は坂本理事。
下地区組合長会の会長は川口理事。
中地区漁協運営委員会の会長は森理事。
さらに、資料上では、坂本理事、森理事、川口理事の3人が、上・中・下の会長であり、また別の3人が上・中・下の役員であるとの整理もされている。
原告側は、被告ら理事全員が玄海漁協に対し、連帯して1476万円の損害賠償義務を負うべきだと主張している。
ここで問われているのは、単に「誰が飲み食いしたのか」という低い次元の話ではない。
理事としての善管注意義務。
組合財産の管理責任。
協力金の使途に関する説明責任。
そして、組合員全体の利益を守る義務である。
理事とは、名誉職ではない。
組合長の横に座って判子を押すだけの存在でもない。
組合員の財産を預かる責任ある立場である。
その立場にありながら、協力金の流れを把握していなかったというなら、それ自体が問題である。
把握していたなら、なおさら問題である。
裁判所が通帳提出を求めた意味
第一回口頭弁論で、裁判長が被告側に対し、組合長らが隠しているとされる銀行通帳の提出を求めたという。
これは極めて重要である。
協力金をめぐる裁判では、口で何を言ったかより、通帳に何が記録されているかがすべてである。
いつ、誰から、いくら入ったのか。
どの口座へ移したのか。
誰が引き出したのか。
何に使ったのか。
領収書はあるのか。
総会や理事会で承認されたのか。
組合員に説明されたのか。
通帳は嘘をつかない。
だからこそ、通帳の提出は核心である。
被告側が本当に「何を調べられても問題はない」と言うのであれば、通帳も、議事録も、領収書も、業者との合意書も、すべて出せばよい。
隠す必要などないはずである。
100円問題から、1476万円問題へ
この裁判は、当初、協力金単価の不合理性を問う裁判として始まった。
佐賀は100円。
長崎は150円。
その差額によって漁協が被った損害は5700万円余り。
しかし、ここにきて、もう一つの問題が浮上している。
それが、1476万円問題である。
協力金は適正に管理されていたのか。
別口座に移された金は何だったのか。
旅行や食事に使われたとされる金は、誰の判断だったのか。
それは本当に組合のための支出だったのか。
それとも、一部役員のための支出だったのか。
5700万円の訴訟の中に、1476万円の通帳問題が乗ってきた。
これは、玄海漁協にとって相当重い。
「困る〜」のは誰か
資料には、原告組合員たちの横に「困る〜」という吹き出しが描かれている。
まさに、その一言である。
困るのは誰か。
海砂採取で海が削られる漁業者である。
説明を受けていない組合員である。
本来入るべき金が適正に管理されていなかった可能性のある漁協である。
逆に、困らない人たちは誰か。
通帳を見せたくない人たちではないのか。
金の流れを明らかにされたくない人たちではないのか。
この裁判は、佐賀玄海漁協の内部統治そのものを問う裁判になりつつある。
次回公判では証人尋問が行われる。
次回公判は8月17日午後1時30分から開かれる予定である。
ここで注目すべきは、被告側がどこまで資料を出すかである。
通帳を出すのか。
領収書を出すのか。
理事会議事録を出すのか。
業者との協力金に関する合意書を出すのか。
地区組合長会や運営委員会の会計資料を出すのか。
出せば、金の流れが見える。
出さなければ、疑念はさらに深まる。
「何も悪いことはしていない」
そう言うのは簡単である。
だが、組合員が求めているのは言葉ではない。
通帳である。
領収書である。
議事録である。
説明責任である。
玄界灘の海砂をめぐる協力金訴訟。
いよいよ、海の底だけでなく、漁協の底まで掘り返されようとしている。
JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次